ADHD(注意欠陥多動性障害)は発達障害という大きな領域のうち、主に多動(動きが多くなる)・不注意(注意が集中できない)・衝動性(がまんが苦手)という特徴を持ち、それらが生活に大きく影響している場合に診断される病名です。
ADHDのうち、どの特性が強く現れるかは個人差がありますが、特に衝動性が強いタイプの方は怒りのコントロールが困難で、周囲とのトラブルを起こしやすいと言われます。
私が外来や入院で経験した例でも、発達に関連した問題のうち、この怒りのコントロール(アンガーマネジメント)に関する問題が前面に出やすい場合が多く、薬物療法も併用しながら、怒りとどのようにつき合っていくのか話し合いを重ねる必要がありました。
この本ではADHDの特性から生じやすい様々な怒りに関連した問題を取り上げ、いかに対処したら良いか、非常に具体的に述べられています。イラストや図が多用されており、視覚的にも理解し易く構成されており、ADHDの特性から本を最後まで読むのが苦手である方にもお勧めです。
基本的には見開き2ページで情報が完結する構造化がなされています。開いて、気になったテーマだけを読むやり方で十分役立つと思われます。
それと、タイトルには「ADHDの人のための」とありますが、怒りの制御に自信のない人なら誰にでも役立つ内容で溢れています。
ぱっと開いた2ページだけ読んで、それから次の日までそのことを実践する、または知識を反芻するというような使い方で、大きく対人関係を変える力のある本だと思います。
最後に監修者のまえがきを抜粋させてください。
「皆様にまずお伝えしたいのは“怒りはあなた自身ではない”ということです。大切なのは“怒りという感情”と“あなた自身”を分離すること。“自分は今怒っている”と気づくことで、感情とあなた自身は少しずつ分離されます。」
このように、感情に完全に飲み込まれた状態から、少しでも脱することの重要性を強調しています。「本当のあなた」、「本当に言いたいこと」は怒りという感情そのものではなく、その背後には怒りという感情につながった、寂しさややりきれなさがあったはずです。ここで述べられている「アンガーマネジメント」とは決して無理に感情をコントロールすることではなく、「本当に伝えたいこと」を伝えるために心の柔軟性を取り戻すことであることが分かります。「アンガーマネジメント」についてはまた、公開講座(勉強会)やブログでお伝えしていきたいと思います。