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『技芸としてのカウンセリング入門』 杉原保史著


様々な流派やスタイルが存在するカウンセリングの世界において、全てに共通する部分をはっきりと示すことは困難だと思います。しかし、この本はカウンセリングが技術的なレベルとして、カウンセリングと呼ばれるに値するための要素を明らかにしようとしているように感じます。

この本の基本的な姿勢を示している部分を抜粋させてください。

「本書に表現されている私の考え方の顕著な特徴は、カウンセリングを技芸(アート)として見る見方にあります。カウンセリングを、科学や学問としてよりも、技芸として見る。私は、カウンセリングは、端的に言って、音楽や演劇やお笑いなどのパフォーミング・アートの一種だと考えているのです。」

技芸であるからには、上手と下手があり、技術的レベルとしての評価の可能性があるということ……特に専門家として自分のやり方がある程度できて「しまった」後には、受け入れ難い事実です。

……自分の治療が上手く行かないのは、まず単に「下手」なんじゃないだろうか?

私の場合、この本を読むと、そんな疑念が常に湧いてきます。

例えば、カウンセラーの「聴き方」に言及した次のような一節があります。

「……カウンセラーの典型的な聴き方は、これとはかなり違います。それは努力しない聴き方です。とても集中して聴きますが、がんばって聴くのとは違います。力みなく、心を自由にして、ただ聴くのです。頭を使うというよりは、全身で感じながら聴きます。考えるモードではなく、感じるモードで聴きます。」

私は上記のような記述に、本来形のない「こころ」の有り様や感覚的な部分について、言葉で空間を削り取るように形を与える過程をみている気がします。

読むたびに、人間との関わりとしてのカウンセリングを求道的に解き明かそうとしてる姿勢に、励まされる部分が多いです。カウンセラーだけでなく、言葉を使って人と交わることに自覚的な多くの方におすすめしたい一冊です。

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