精神疾患の治療を長い間担当していると、いつの間にか健康問題を精神的な問題として考える傾向が出てくるように思います。
精神症状なら猶更で、他の分かりやすい身体症状がない限り精神疾患としての治療のみを追求してしまうかもしれません。
今回は、高齢者の方ですが、急性の精神症状の原因がホルモン異常だった症例報告をご紹介します。
“Acute psychosis as an initial manifestation of hypothyroidism: a case report”
甲状腺機能低下症の最初の兆候が急性の精神症状であった例
Journal of Medical Case Reports(2015)9:264
DOI 10.1186/s13256-015-0744-z
簡単に症状を説明するとつぎのようになります。
「90歳の日本人男性。職業は一般内科医で、急に発症した活動性低下・妄想・幻覚で救急病棟に入院した。彼は入院の3日前まで内科医として働いていた。入院時の身体診察では明らかな異常はなかったが、血液検査で甲状腺機能の低下とCTで胸腹水を認めた。脳波では広い範囲で徐波(ゆっくりとした波、意識障害を示すことが多い)とα波(通常、覚醒しているときにみられる脳波)の減少を認めた。すぐにホルモン補充療法が行われ、甲状腺機能の値や胸腹水、脳波の異常は速やかに改善されたが、精神症状だけは継続した。」
つまり、高齢者でほとんど体の症状はなく、急に精神的な異常が現れたということなのですが、通常なら「せん妄」だとか「潜在性に進行した認知症に合併した急性の精神病状態?」とか考えられて、向精神薬での治療をメインにするところだと思います。
しかし、この報告のようにホルモンの補充を行わなければ、きっとさらに体液の貯留や意識障害が遷延したと思われます。
今回の症例報告はほとんど純粋な精神症状と思える場合でも、様々な原因を検討する(=鑑別を広くとる)習慣を大切にしたいと感じる内容でした。