精神科病院へ入院した実体験をもとにしたマンガです。
作者は高校の時に強迫性障害、自傷行為の悪化で閉鎖病棟に1か月間入院しました。その時の体験を生々しい筆致で描いています。
作者の強迫性障害・自傷の描写はかなりリアルかつ重たく、病気に関する理解を深めたいという方以外にはちょっと辛い内容かもしれません。
強迫性障害の中でも、作者が体験した「~しないと死ぬ」という強迫観念は、時々聞くことのある内容ですが、このマンガの中で描かれている観念は特に「~」の広がりが多様で、逸脱した内容が多く、非常に強い苦しみをともなうものでした。
例として挙げられている「つかんでいる生ごみを食べないと死ぬ」、「転んでから床を舐めないと死ぬ」などの行動の縛りは、深い葛藤と奇行を生み、自身の苦しみと周囲との軋轢の果てに社会生活が破たんしたことも深くうなずけました。
自傷行為についての洞察も深く、行為そのものをどのようにとらえたらいいのか今でも悩むことの多い私のような人間にとって、少しだけ理解の糸口になったような気がします。答えのない部分もありますが、少なくとも心情への共感のないまま禁止だけしたり、わかったつもりで早過ぎる共感をしたり、良く考えもしないまま理解不能のカテゴリーに入れたりしないようにしようと考えました。そして、とにかく焦らないこと……ご本人が行為やその根っこにある気持ちに向き合うのを見守ることが大切だと思いました。
前半では毒親みたいな描かれ方をしている作者の母ですが、一生懸命過ぎたが故の不適切な関わりが痛々しく感じました。作者との葛藤が強く、関わりが違っていれば、経過も違っていたのでは……と考えてしまいましたが、みんな一生懸命の気持ちで生きている中、観察者然としてifについて考えるのも違うような気がしました。
最後の方で「このままだとお母さんに読ませられない」とフォローの内容を描いているのことに温かい気持ちになりました。
全体として辛い内容であるにも関わらず、登場している家族が本人を大切に思っていることが伝わってきて、じんわりとした読後感を残す作品でした。