マニュアルとは書かれていますが、精神科で患者さんに会うときの心構えからどのように臨床医として生き残り、有効な治療につなげるかというサバイバル術といった趣の内容まで含んでいます。
当時、精神科面接全般に関する本が少なく、この本に出会ったときにはとても嬉しかったのを覚えています。
前書きからインパクトがあり、引き込まれました。少し抜粋させてください。
「私は精神科レジデントとして働いていた1年目のある晩、本書のようなマニュアルを作ることを思いついた。精神科救急の当直についたときに、私は待合室に5人の患者がいることに気づいていた。私と勤務交代するレジデントが救急処置室のポケットベルを渡しながら、救急処置室にさらに2人の患者がいて、ともに拘束されていると申し送りをした。まさにそのとき、ポケベルが鳴った。その番号に電話すると『……(略)こちらに落ち込んで死にたいと言っている患者さんがいます。大至急診察に来てください』と言われた。……(略)夜も遅くなるにつれて、私の面接はだんだん短くなっていった。……(略)私の面接全体は、『あなたには自殺のおそれがありますか?』という質問とほとんど同様のものになってしまったのである。」
どんなに急いでいても無くしてはいけない専門家としての態度があり、技術や知識の発揮が損なわれてはならず、もちろん患者さんの不利益を生じてはならない。しかし、診察にかけられる時間は無慈悲に限りなくゼロに近づいていく……。
そんな事態の中で、どんなふうに「マトモさ」を保つのか、……精神科面接あるいは患者さんとの出会いの中で持つべきエッセンシャルな部分がギュッとつまっているような本です。
知識を身につけようととりあえず研鑽は積んでいるけれども、実際どんなふうに患者さんとやりとりして良いのか迷いの中にいる私のような人にお勧めの一冊です。