今まで何冊か認知療法または認知行動療法に関する本を紹介してきました。
今回はやや専門家向けの本と言えると思います。しかし、事例について詳しく知りたい。あるいは今までにいくつか本は読んで大まかな知識はあるけれど、認知行動療法の実際の流れをもっと具体的に知っておきたいという一般の方にも、十分役に立つ内容だと思います。
この本のコンセプトにふれた「はじめに」の一部を抜粋させてください。
「……そこで認知行動療法についてある程度の知識をすでに有し、現場で実践しようと思っている、もしくは実践を始めている臨床家の方々の助けになるような、事例を中心としたテキストのようなものを書いてみたいと思うようになった。そうして出来上がったのが本書である。本書に紹介されている12の事例は、臨床現場でよくお目にかかるタイプの主訴だったり問題だったりする。そのような主訴や問題に対する筆者のアプローチを、できるだけ具体的に紹介し、参考にしていただきたい、というのが本書のコンセプトである」
実際に導入から終結まで、セッションの内容が非常に具体的に書かれており、一部は発言内容の逐語的な記載も含み、「こんなとき、どう言ったら良いんだろう?」という臨床場面での疑問にも答えられる内容になっています。
選ばれている12の事例も幅広く、大うつ病性障害、気分変調性障害、複雑な気分障害、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害・対人恐怖、摂食障害、境界性パーソナリティ障害と多岐に渡っております。認知行動療法をしてみようと思う、ほとんどの場面に対応できる主訴・問題のバリエーションであると考えられます。
また、単なる認知行動療法で使われる様々な道具や技法の説明に終始せず、主訴をどのように理解し、認知行動療法を使いながらどのように援助できるか、あるいはどのように目標を設定し、終結の合意にまで達するかなど、治療全体を見渡すかたちで学ぶことができます。
一つ一つのモジュール(道具)の使い方は理解したけれど、それらをどのように組み合わせるか、また、治療全体を見たときの今自分がやっていることの位置づけが分かりにくかったという方には非常におすすめの内容と言えると思います。