まず、中井久夫先生が序文として寄せられた文章にひきつけられます。少し抜粋させてください。
「うつ病の難しさを私はしたたかに味わってきた。うつ病の人が医師を許し認めるのは、自分の本当のことをわかっちゃいないと思うけれども、医師としての義務を忠実に果たしているという場合だけではないかと思うことさえあった」
この本自体はうつ病の概説をする本ではなく、題名のように著者の考える治療上のポイント(大切なこと)を重点的に伝える内容になっています。
豊富な事例で治療の具体像を示した上での重点的説明なので、非常に理解し易い内容になっています。
うつ病治療について述べた著者自身の言葉を抜粋させてください。
「うつ病は、軽い状態の人から重い状態の人、簡単な人から複雑な人までさまざまである。したがって、すぐに治る人から長くかかる人まで経過は多様である。ただ、簡単そうに見える人でも治療のやり方を誤れば遷延させてしまうし、また難しそうに見える人でも適切な治療をすれば意外と簡単にいく場合もある。ゆえに、うつ病の経過を左右するのは、本人の状態だけではなく家族、治療者、関係者、状況などのありようが深く関わる」
こうした考えを受けて、この本では全体の関係性を重視した記述が目立ちます。
もう一つ感じるのはこの本には「血が通っている」ということです。
実際に患者さんや著者が苦しんだことがポイントとなっており、その点に関して冷静ではありながら、情熱を感じる筆致となっています。
とりあえず基礎的知識については読んでみたけれど、どんな困難がうつ病治療にあり、どのように闘ったら良いか知りたい人にはおすすめの内容です。