まずは題名を正しく理解するためにも、著者を良く知る言語聴覚士による「推薦のことば」の一部を抜粋させてください。
「この本に紹介された改善例のすべてが、漢方薬のためだけで起きたと言い切るにはムリもあるでしょう。特に低年齢のお子さんの場合には、もしも、漢方を飲まなかったとしても、年齢の進行と、環境との相互作用により改善した可能性は残されています」
上記のような可能性があったとしても、本書の価値が下がることはないように思います。同じ「推薦のことば」の中で述べられているように、かえって過大な期待を持つことは、漢方処方が患者さんの役に立つように使われるために益にならないかもしれません。この本の役割の一つは、漢方処方が自閉症の方の緊張を和らげるための選択肢を提供することであるように思います。
それから、順序が逆になりましたが、後半で漢方使用の具体例が詳しく述べられる前の、自閉症の症状の意味、自閉症の診断の本質的な部分に関する解説は、疾患の概念が変化している現在でも、とても勉強になります。他の本では得られない、療育や臨床を熟知した上での知見が詰まっており、漢方の部分に抵抗のある方でも読む価値が十分あるように思われます。
薬剤に対する過敏性が問題となることの多い自閉症スペクトラムの治療で、漢方薬は重要な選択肢の一つであることは間違いがないと思われます。充分なエビデンスとは言えないまでも、多くの臨床経験に基づくこの本は、私に自分の薬物治療を振り返る機会をあたえてくれたように感じました。