以前に、血圧の管理がどのように心臓血管の病気に影響するかを調べたSPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)という大規模な試験がありました。
収縮期血圧が120mmHg未満になるよう厳格に降圧することで、心血管イベントは25%、全死亡は27%減ると報告され、血圧管理の方針に影響を与えました。
追加の調査として精神(認知)領域への影響も検討するSPRINT MINDが行われており、今回はその結果の一部をご紹介します。
厳格な血圧管理と標準的管理で認知症に対する影響を調べた
平均年齢67.9歳の9000人以上の高血圧症患者が調査の対象となりました。
およそ5年の経過観察の期間を経た結果として、以下のようなことが分かりました。
①いわゆる認知症(probable Dmentia)に該当するような大きな認知能力の低下については若干の差は生じた(年間1000人当たりの発症が7.2人 vs 8.6人)ものの、統計学的には意味はなかった。
②MCI(Mild Cognitive Impairment)と言われる軽度の認知障害では、年間1000人当たりの発症が14.6人 vs 18.3人と収縮期120mmHg以下の厳格な血圧管理で少なくなっていた。
このように、認知能力の低下を軽度のものにまで広げると、収縮期血圧を120mmHg以下にする方が有利なことが分かりました。
この軽度の認知障害は中等度以上の認知症に移行することも多いことを考慮すると、さらに観察期間をのばすことで、「厳しく血圧管理をすることで長期的には認知症も防ぐことができる」という結果が得られる可能性があります。
全ての認知症の病態について言えることではありませんが、比較的取り組みやすく有効な認知能力低下の予防手段が分かることで、今後の認知症予防に対する方針が変化していく可能性を感じる論文でした。