以前から認知症のようにみえるうつ病について「偽認知症」、「仮性認知症」という言葉がありますが、高齢者においてはうつ病と認知症との見分けがつきにくい場合が多く存在します。
うつ病か、認知症のどちらかなのか、……あるいは合併しているのか、……合併があるときにはうつ病の治療も認知症治療と併行して行ったほうが良いのか、診断や治療方針に悩むことがあります。
特に高齢者においては、副作用が出やすいこともあり、薬剤の使用には慎重になるべきであると思われます。
今回は、認知症にうつ病が合併していると診断された場合に、認知症とは別に抗うつ薬による治療を行って効果があるのか検証した研究をご紹介します。
認知症に合併するうつ病の治療に使われた抗うつ薬
複数の研究を統合してより信頼性の高いデータを得ようとするメタアナリシスという手法で、1592人の対象者を含む10本の研究(その中で実際に基準を満たすだけの詳細なデータが得られたのは8本の研究)が分析に使用されました。
結果として以下のようなことが示されました。
①抗うつ薬開始からの経過期間に関わらず、抗うつ薬による気分の落ち込みの改善効果は明らかではなかった。
②その他の領域として活動性を示すADLの項目についても改善を認めなかった。
③うつの改善に伴って認められることのある認知機能の改善についても明らかではなかった。
④抗うつ薬を使用した場合には副作用のためと思われる治療からの脱落が多かった。
以上の結果で、抗うつ薬の有効性が全く否定されたわけではありません。
しかし、少なくとも現在までに得られた証拠を重視するならば、認知症に気分の落ち込みを合併したときでも、抗うつ薬の使用には多くの配慮を要すると思われます。
睡眠薬や抗精神病薬など、高齢者においては使用に慎重を期するものが多く、今後も処方の必要性について十分検討していきたいと思いました、