「瞳を見ながら」
「話しながら」
「触れる」
このような私たちが大切な人に対して行っている「当たり前のこと」を意識して行うだけで、認知症ケアは大きく変わるといいます。
“ユマニチュード”……フランスで始められた認知症ケアの技術のことをそう呼び、日本でも以前から話題にのぼることが増えています。
そこには、技術だけではない“人間とは何か?”、“共に生きるとはどういうことが?”と問い続ける姿勢が含まれています。
本書のコラムに含まれている“ユマニチュード”についての説明を抜粋させてください。
「ユマニチュードでは、『人とは何だろうか』といつも考えます。そして、『あなたは大切な人間なのですよ』と相手が理解できる形で伝え続けます。伝えるためのその技術が、『見る』『話す』『触れる』『立つ』のユマニチュードの4つの柱を常に組み合わせて行う『マルチモーダル・コミュニケーション』と、すべてのケアを一連の物語として行う『ケアの5つのステップ』です。」
「あなたを大切に思っている」ことを相手がわかる形で伝えるための「ユマニチュードの4つの柱」について、若干の内容を加えると以下のようになります。
「見る」:正面から、近く、水平に、長い時間見る(ただし、近づくときには「5つのステップ」のように、ゆっくりと認識しやすいように近づく)
「話す」:低めの声で、穏やかに優しく、前向きな言葉を使い、とぎれなく話す(無言は存在が否定されているように感じさせる)
「触れる」:触れるときには広い面積でしっかりと(つかむと「強制と不安」を感じさせる)
「立つ」:1日20分立つことができれば寝たきりにならない
他にも、「何かをするときには、その直前に一つずつわかりやすく伝えて、それができたら次のことをお伝えします。」など、日常のコミュニケーションで誰が相手でも気を付けたいことがたくさん含まれています。
本文中のコラム「私たちの存在が薬となる」で述べられているように、「人工的に合成した薬剤を使わなくても、アイコンタクトや触れることによってもオキシトシン(不安感を低下させる作用のあるホルモン、「愛と信頼のホルモン」と呼ばれる)が分泌されていることがわかってきました」。
この「私たちの存在が薬になる」という認識が、治療や介護(援助)の上で非常に大切であると感じました。