対人関係療法を主として行っている水島広子先生の著書です。
「自己肯定感」=「自分を大切にする気持ち」
ととらえて、どのようにしたら「自己肯定感」を持つことができるのかが説かれています。
自己肯定感が低い場合の弊害として
・やりたいことが分からない
・恋人を束縛してしまう
・ボロボロになるまで働いてしまう
・嫌なことを「嫌だ」言えない
・すぐ他人にムカついてしまう …………
などの例が挙げられています。
それぞれのケースに関する説明は、対人関係に関する深い洞察に基づいており、納得できるように感じました。
本の構成として、冒頭で「自己肯定感」についての説明、次に「自己肯定感」を持つための方法として「他人をリスペクトすること」をあげ、後半で「自分をリスペクトすること」や「本当のつながり」を作ることの大切さを述べています。
本書の最大の特徴は、「自己肯定感」を得るための方法が、少なくとも当初から自己に向かうものではなく、「他人をリスペクトすること」であるという点です。
自分で自分を褒められるようになる方法や「いいとこ探し」に類する方法を求めている場合には、「リスペクト」の方法論のところでつまづいてしまうかもしれません。
本書の中で「リスペクト」とは「ありのままの相手に敬意を持つ、尊重する」と表現されています。
他者をリスペクトすることが、上記のカッコ内の「相手」を「自分」におきかえた「ありままの自分に敬意を持つ」ということにいかにつながるか、丁寧に段階を追って説明されています。
通常の「自己肯定」論にみられる自己に向かうベクトルからは逆の方向から、対人関係の改善を促進する方法を理解していきます。
この方法は、自己を中心に据えることが自己を肯定することであると認識している場合には、「パラダイム・シフト」(考え方の転換)を促すものと言えそうです。
対人関係についての洞察を求め、「自己を肯定すること」の本来の意味とは何か問い直したい方にとって、本書は非常に参考になる部分があると思われます。