代表的な抗うつ薬であるセルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)の添付文書中の一部を抜粋させてください。
4. 効能又は効果
うつ病・うつ状態
パニック障害
外傷後ストレス障害
5. 効能又は効果に関連する注意
〈効能共通〉
5.1 抗うつ剤の投与により、24歳以下の患者で、自殺念慮、自殺企図のリスクが増加するとの報告がある。本剤の投与にあたっては、リスクとベネフィットを考慮すること。
〈うつ病・うつ状態〉
5.2 本剤を18歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること。
〈外傷後ストレス障害〉
5.3 本剤を18歳未満の外傷後ストレス障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること。
5.4 外傷後ストレス障害の診断は、DSM注)等の適切な診断基準に基づき慎重に実施し、基準を満たす場合にのみ投与すること。
<中略>
8. 重要な基本的注意
〈効能共通〉
8.1 うつ症状を呈する患者は希死念慮があり、自殺企図のおそれがあるので、このような患者は投与開始早期ならびに投与量を変更する際には患者の状態及び病態の変化を注意深く観察すること。
8.2 不安、焦燥、興奮、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意、攻撃性、衝動性、アカシジア/精神運動不穏、軽躁、躁病等があらわれることが報告されている。また、因果関係は明らかではないが、これらの症状・行動を来した症例において、基礎疾患の悪化又は自殺念慮、自殺企図、他害行為が報告されている。(以下略)
8.3 自殺目的での過量服用を防ぐため、自殺傾向が認められる患者に処方する場合には、1回分の処方日数を最小限にとどめること。
8.4 家族等に自殺念慮や自殺企図、興奮、攻撃性、易刺激性等の行動の変化及び基礎疾患悪化があらわれるリスク等について十分説明を行い、医師と緊密に連絡を取り合うよう指導すること。
8.5 眠気、めまい等があらわれることがあるので、自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には十分注意させること。
8.6 投与中止(突然の中止)により、不安、焦燥、興奮、浮動性めまい、錯感覚、頭痛及び悪心等があらわれることが報告されている。投与を中止する場合には、突然の中止を避け、患者の状態を観察しながら徐々に減量すること。
〈外傷後ストレス障害〉
8.7 外傷後ストレス障害患者においては、症状の経過を十分に観察し、本剤を漫然と投与しないよう、定期的に本剤の投与継続の要否について検討すること。
以上のように、非常に様々な副作用について言及されています。
中でも、若年者に投与した際の自殺企図の増加に関して注意喚起が繰り返されているのが目につくと思います。
今回は、抗うつ薬で懸念されてきた多くの副作用について、実際のリスクを複数の分析結果をさらに合わせて評価した論文について、概説させてください。
45のメタアナリシス(複数の論文を合わせて評価したもの)をさらに統合して評価しました。
全体を合わせて評価したところ、ほとんどの副作用について明らかな健康被害を認めなかったものの、以下の点に関しては有意差(統計上、意味のある差異)を認めていました。
①子どもや思春期の若者に使用した場合の自殺あるいは自殺企図の増加
②妊娠中に服用した場合の、出産児における発達障害の増加
ただし、これらを交絡因子と呼ばれるもともとの服用条件(抗うつ薬を妊娠中でもやめられない重度のうつを患っていた背景等)について調整すると、証拠としての強度は弱いという結果でした。
結局、上記の①や②についても、もともと評価の対象となっている服用した対象者の状況や個人的な背景が結果を歪ませている可能性があり、一概に若者や妊婦の抗うつ薬使用を否定する必要まではないようです。
いずれにしても、特に上記のような状況では、必要性に関して慎重に検討したいと思いました。