神経と神経のつなぎ目で、信号の伝達を担っている物質を“神経伝達物質”と言いますが、そのうちの一つにセロトニンがあります。
そして、神経終末におけるセロトニン濃度の低下やセロトニンの機能低下がうつ病の主要な原因であるという“セロトニン仮説”があります。
他にも関与しているとされる神経伝達物質はありますが、うつ病の説明において“セロトニン仮説”が果たしてきた役割は大きく、診察でうつ病の説明をするときに、「脳の神経と神経の仲立ちをしているセロトニンという物質が少なくなって、気分の落ち込みが起こっています」と説明することがあります。
今回は、うつ病のセロトニン仮説について、その根拠を調べた研究をご紹介します。
うつ病のセロトニン仮説: 証拠の系統的レビュー
セロトニン仮説に関連する361本の研究のうち、基準を満たす17本(165,000の参加者)が分析に含まれました。
セロトニン機能に関して、うつ病で生じているとされる仮説には以下の6つがあります。
セロトニンやその代謝物である5-HIAAの体液中濃度が低下している。
セロトニン受容体の機能が変化している。
セロトニントランスポーターの活性が増加している。
トリプトファンが欠乏している(これが、セロトニン濃度を低下させる)。
セロトニントランスポーター遺伝子の活性が増加している。
セロトニントランスポーター遺伝子とストレスの相互反応を認める。
結果として、以上のいずれについても、うつ病において変化が生じている証拠がありませんでした(例: 3つの大規模な集団における調査で血漿と脊髄液を調べたところ、うつ病でわずかにセロトニンの血漿濃度低下をみとめたものの、明らかな差異には至らなかった)。
要約: 『うつ病において明らかにセロトニンの機能異常が生じているという証拠はない』
うつ病のセロトニン仮説は広く受け入れられており、抗うつ薬が効果を発揮する仕組みの説明にもしばしば用いられていますが、少なくとも現在までのところ、これを裏付ける明らかな生化学的証拠は乏しいと言えそうです。
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