昨日は脳血管障害による感情失禁(激しい嘆きや笑いが些細なきっかけで生じ、コントロールできないこと)が慢性化した場合の薬物療法についてご紹介しました。
今日は、脳梗塞後に生じたうつ症状と思われていた例についてご紹介します。
嘆くが、落ち込みはない
脳卒中後の情動変化
67歳の男性。1年程前に脳梗塞の発作を起こし、入院しました。退院後1ヶ月位して、抑えることのできない嘆きを生じるようになりました。当時、通院していた内科ではうつ病と考え、抗うつ薬を開始し、段階的に増量しました。しかし、効果はなく、爆発的な嘆きが継続していました。その後、心筋症を合併し、循環器科に紹介された後、重度のうつ病として老年精神科のクリニックに紹介されました。確かに彼は抑えがたい嘆きの発作を起こしていましたが、気分の落ち込みは否定していました。興味や喜びの喪失、精神活動の低下、集中困難、睡眠や食欲への影響もありませんでした。全体的にみて、うつ病とは考えにくく、脳梗塞後に生じた“感情失禁”と判断し、別のSSRI(セルトラリン50mg)を試みました。間もなく、嘆きの発作は起きなくなり、日常生活への情動変化の影響はなくなりました。
脳血管障害の後にはうつ症状も感情失禁も両方あり得る病態なので判断が難しいところだと思われます。
また、抗うつ薬のSSRIはうつ症状にも、感情失禁にも有効なので、結局どちらの診断においても同様の対応をとられた可能性があるとも考えられます。
しかし、感情の変化をどのように捉えるのかという問題は、家族の対応や精神療法上の違いを産むと思われます。
表面上の嘆きのみにとらわれずに、うつの基本的な症状が認められるかを正確に判断するべきであると考えました。
#脳梗塞 #感情失禁 #薬物療法
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